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多扉車の終焉

交通システム工学科3年 5023番 大野 航平

1. 多扉車の生い立ち

 日本の通勤型車両では車体の片側3枚または 4枚の扉配置が主流である。しかしながらわが国では片側5枚、6枚といったより多い扉を持つ車両の運用もなされている。これらが本稿において取り上げる「多扉車」である。
 多扉車の登場の背景には高度経済成長期からバブル期における都市周縁部への住宅造成とそれに伴う鉄道輸送の需要の増大、輸送力のひっ迫があげられる。この差し迫った需要に対し鉄道会社各社は輸送力を確保しなくてはならなかった。輸送力確保の手段として増結や増発があげられるものの、増結を実現するためには対応するだけのホーム長を用意することが求められ、増発についても可能な限りの増発を尽くした後は複線化など抜本的な路線の改良が必要であり速やかな対応は難しい状況であった。
 前述のような追い詰められた中で更なる本数増を行うべく登場したのが多扉車である。車体に従来よりも多くの扉を配すことにより、開閉に要する時間を維持しながらも乗降可能な開口幅を広げ速やかな乗降を実現し、停車時間の短縮と運転間隔の縮小そして更なる増発を可能にした。


2. 導入された多扉車たち

 多扉車は京阪電鉄が1970年に導入した5000系電車の後しばらく導入事例が見られなかったものの、1990年頃より営団(現 東京メトロ)、JR東日本、京王電鉄、東武鉄道の各社が導入しその後2005年より東急電鉄が導入し現在に至る。
 各社の導入した車両のうち、京阪・京王・営団・東武では5扉車が、JR・東急では6扉車がそれぞれ導入されている。本章では各社が導入した各社の特徴について触れていく。


2.1 京阪電気鉄道5000系

 日本における多扉車のパイオニアであり、輸送力増強とサービス向上のため1970年より7連7本の計49両が導入された。
 従来車では扉幅1300mmの扉を片側3か所配置していたものを扉幅1200mmに縮小の上で片側5扉とし全車に配置し、編成全体で一般の3扉車と比べ14か所16800mm広い開口幅を有する。第2、第4扉に当たる増設部の扉に関しては表面を金属仕上げの「ラッシュ用ドア」とし混雑時間帯のみの使用とした。同車の固有の特徴としてラッシュ用ドア部に昇降式の座席を配した点が挙げられる。これによりラッシュ時には多扉車として他車以上の収容力を持ちながらも、日中は3扉車と同等の着席定員を実現した。
 2016年度に7連1本の廃車が出ているほか、ホームドア導入が予告されていることから同車の活躍は長くてもあと3年程度になることが予想される。




写真1 京阪5000系電車




写真2 扉部の座席


2.2 京王6000系

 1972年より導入された6000系のうち、1991年導入の最終増備車にあたる5連4編成では1300mm片側4扉より、開口幅はそのままに5扉へ仕様変更し従来車と比較して扉数とつり革数の増加を図った。ラッシュの切り札として導入された同車は当初は新宿方に2両、京王八王子方に3両を連結した10両で運用された。しかしながら後年は10両編成の増加など混雑の緩和により2000年に2編成が4扉へと改造の上で10両を組み運用され、未改造の2編成については6両と4両に組み換えの上で相模原線やラッシュとは無縁の動物園線などで活躍したが、2007年と2011年にそれぞれ運用を離脱し京王れーるランドにてシミュレータ、車掌体験用として保存された6722、6772号車のカットモデルを除き解体された。




写真3 京王6000系(写真は4扉車)


2.3 営団03系・東武20050系

 1988年より導入された営団03系のうち1990年導入の第9編成から第28編成までの8連20編成と1992年より導入された東武20050系8連8本では従来の扉幅1400mm片側3扉ではなく扉幅1300mm片側5扉を採用した。
 両者が活躍する地下鉄日比谷線において出入り口がホームの前後に多く存在することから5扉車については8両編成前後の各2両に導入としその他の車両については3扉車とした。5扉車のうち3扉の扉間に増設された2扉では締め切り扱いが可能な構造とした。
 2017年8月現在、営団の民営化により発足した東京メトロでは13000系を、東武では70000系をそれぞれ導入しており4扉車7両編成への置き換えが進められている。




写真4 営団→東京メトロ03系




写真5 東武20050系


2.4 JR東日本6ドア車

 山手線の乗降時間を短縮するため1990年に205系6ドア車の試作車が2両登場した。側面には従来車と同様に扉幅1300mmの扉を片側6枚設け、混雑緩和のため朝ラッシュ時はオール立客とするため座席は折り畳み式とし、吊り手数を増やしスタンションポールを設置した。また扉数の増加に対応するため、冷暖房の強化が図られ冷房容量の強化と床暖房の導入が行われた。その後試作車による実車試験を経て、山手線の11両化に合わせて量産車が登場し編成中10号車へと組み込まれた。
 山手線用の53両(試作車を含む)に続き、横浜線用205系の8両化のため2号車へ26両が導入された。その後も導入は続き、6DOORSステッカーの貼り付けや車体形状、細部の変更は行われたものの車内のレイアウトはそのままに京浜東北線向け209系量産車の6号車と中央・総武線向けE231系の5号車へも導入が進められた。
 2002年より始まった山手線205系置き換えの際には後継となるE231系500番台にも6ドア車の導入が行われ、7号車と10号車へ1編成中に2両が組み込まれた。同車の導入により置き換えられた205系6ドア車は埼京線、横浜線へと転出し更に活躍の場を広げた。
 しかしその後は既存の線区以外への導入は行われず、2010年に京浜東北線向け209系電車の置き換え完了を皮切りに、2011年にホームドア導入による4ドア車への差し替えにより山手線からも撤退、2014年には埼京線・横浜線の205系が置き換えられ6ドア車が撤退したため、現在JR東日本に残る6ドア車は中央・総武線のみとなっている。
 なお埼京線・横浜線で活躍していた205系については一部が輸出され、元埼京線用の27両と元横浜線用の20両の合計47両がインドネシアへと渡った。




写真6 6DOORSステッカーを掲げる総武線E231系




写真7 埼京線6ドア車の車内


2.5 東急5000系6ドア車

 2002年より導入されている東急田園都市線用の5000系に対して2005年より6ドア車組み込みが行われた。車両についてはJRが導入した6ドア車とほぼ同一の仕様である。2005年の6ドア車導入当初は10両編成のうち5号車と8号車の2両を6ドア車としたが、2009年より4号車にも組み込みを行い、最終的には10両編成中の3両×15編成の45両が6ドア車となった。
 しかしながら2015年に発表されたホームドア導入に支障をきたすことから4ドア車への差し替えが行われ2017年4月に4ドア車への置き換えが完了した。同車では2013年に扉位置が異なっても対応可能な昇降式ホーム柵の実証実験を行っていたが導入には至らなかった。




写真8 東急5000系


3. 多扉車の衰退そして終焉へ

 2000年に京王6000系5扉車のうち5両2本が4扉化改造を受けたことや山手線205系の置き換えに伴い各路線へ転用が行われたことを除けば、本格的な多扉車の撤退は2007年のJR京浜東北・根岸線209系の置き換えより始まった。その後も次世代車両への置き換えに伴い京王6000系の5扉車は2011年までに廃車に、横浜・根岸線、埼京・川越線で活躍していたJR205系についても2014年までに国内での運用を終えインドネシアへと輸出された一部の車両を除き廃車となった。また2017年8月現在でも活躍している京阪電鉄5000系、JR総武線のE231系、東京メトロ日比谷線と東武線で活躍している03系、20050系についても後継車の登場により各社とも置き換えがアナウンスされており数年以内の撤退となる見込みである。
 またJR山手線のE231系500番台、東急田園都市線の5000系が連結していた各6ドア車についてはホームドアの設置に際して同線区に乗り入れる他車との兼ね合いによりロープ式ホーム柵の導入も検討されたものの、最終的には機器流用などの上で改めて新造された4ドア車両への置き換えが行われ前者は2011年に後者は2017年に運用を終えている。




写真9 役目を終え解体を待つ東急5000系6ドア車


4. まとめ

 主に1990年代に輸送力増強を目的として各社積極的に導入を進めた多扉車であったが、着席定員の減少や3扉車の活躍する路線への5扉車導入を除き乗車位置がずれてしまうなどのデメリットも多く、ホームドアの導入や新型車両導入により各社とも採用を取りやめる動きが進んでいる。もはや安泰といえる車両はおらず風前の灯となった多扉車たちではあるが、通勤輸送のため生まれた車両として最後まで安全に輸送に携わってもらいたい。


参考文献
  1. 福島温也:「現有車両プロフィール2009」『鉄道ピクトリアル 2009年8月臨時増刊号 京阪電気鉄道』、電気車研究会、pp252-254
  2. 鉄道ピクトリアル編集部:「京王躍進の立役者6000系のあゆみ」『鉄道ピクトリアル 2009年8月臨時増刊号 京阪電気鉄道』、電気車研究会、pp186-193
  3. 金子智治:「東京急行電鉄 現有車両プロフィール2015」『鉄道ピクトリアル 2015年12月臨時増刊号 東京急行電鉄』、電気車研究会、pp267-275
  4. 日向旭:「国鉄・JR205系電車主要車歴表」『鉄道ピクトリアル 2016年9月号 JR205系電車』、電気車研究会、pp133-134
  5. 澤内一晃、「通勤輸送対策と多扉・ワイドドア車」『鉄道ピクトリアル 2015年9月号 鉄道の戦後70年』、電気車研究会、pp54-56,76-81
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